憂巳side




「いいお兄ちゃん持ったね、おまえ」



暑い夏の日。

突然そんなことを言ってきた天道さんは、しらばっくれる俺に追い討ちをかけてくる。



「弟をよろしく頼むって、わざわざ天鬼にあたま下げに来ちゃってさ」


「………意味、わかんないよ。だれの話…?」


「おっと?羽倉 千里って憂巳のお兄ちゃんじゃないの?もしかして俺の勘違い?」



馬鹿言うなよ、と、天道さんはいつも俺をおちょくってくるから、今日もその一環だと思うことにした。

けれど何か気持ちが悪くて、俺は言葉を待つ。



「今さっきそう言いにきたよ本人さんが。まあ俺たちと争うつもりはないってこと───」


「っ…!!」


「はっやー」



どういうつもりだ。
今さら、なんなんだよ。

俺を遠回しに馬鹿にしに来たのか、表面だけでもいい兄貴を演じて周りの評価を上げるために必死なのか。


そんな回りくどいことをするような男じゃないってのは、俺が誰よりも知っていた。