「わあ!さくら!」
「………ちょっと、」
身を乗り出してきた女の子は。
俺の腕から胸に広がった模様を見て、笑った。
「あのね、さくらはママの名前なの!」
「………桜子、ね」
「そう!それでね、さくらは春に咲くからわたしの名前!」
「………春陽。たしかにそうだね」
ふわふわなお姫さまみたいな髪は母親の遺伝で、ちょっと意地悪さも見える猫目は父親にそっくりだ。
「うん!春はぽかぽかしてて、あったかいお日さまがあって、みんなでひななぼっこするの!パパの名前よ!」
「……ひなたぼっこ、ね。言えてないし」
桜子、春陽、陽太。
だからなんだって話だけど、少女の笑顔は俺の暗闇を晴らす太陽だった。
「…いい名前だよね。ハルヒのお父さんの名前」
「うん!ひななっ」
「…だから言えてないって」
天道 陽太。
闇に生きている男のはずが、お天道様の下に広がる陽だまりのような名前だ。
あの人にぴったりだと思う。
この家族にぴったりだと、俺は思う。



