「ヤクザだろうが刺青が入ってようが、初対面でいきなり殴りかかってくるくらい常識外れな戦闘狂だろうが。
…“おまえだから”って言ってくれるような奴は、たぶん人生で1人はいると俺は思う」
浮かんだ顔は、ひとり、いた。
「もし2人いたなら幸運、3人だとしたらそれはもう……上々な人生だろ」
「うん、俺もそれは思うよ絃織さん。…憂巳。俺たちがそう言ってんだから、かなり信用していい気がするけどねー」
そこまで知ってるわけじゃないけど、この2人にはこの2人にしかない闇がある。
かつては“一族殺し”とまで言われていた、とある残虐すぎる事件。
彼らはその唯一の生き残りである───悲しい血筋だ。
「つうか陽太。ほんとにこのガキはおまえの息子なのか」
「んなわけないじゃん。俺はただの……ベビーシッターだよ。…ねえ、天道さん」
「んー、まあ、そうね?」
「なんでもいいが問題だけは起こしてくれるなよ。俺は今日にも帰って嫁と子供に会う」
「はははっ。だってさ、憂巳」
嫁バカ子煩悩。
あながち間違いではない。
そしてこの男もきっと、特別な女にでも振り回されているんだろう。
特別な女……。
俺の場合───やっぱりすぐ浮かぶのはあの、音のない世界を生きる少女だ。
それでいい。



