雲雀会と敵対しつづけていた、この界隈でもトップを誇る組織に雲雀会の元カシラでもあり、戦闘狂として生きていた男が寝返った。
まさかそんなウワサが屋敷中に広まっていただなんて。
「ある意味、俺たちに対する宣戦布告なのかもしれねェ。───この組織に未練も情もねえっつう、な。…千里、テメェはどう思う」
「…そんなことどうだっていい。あいつが天鬼を選んだところで、俺にはなんの関係もない。むしろこれで家族の縁が切りやすくなって良かったんじゃないか」
天鬼組を恐れもしない、我らが羽倉 憂巳の兄───羽倉 千里(はくら せんり)。
なにを考えているのか読めない鋭い瞳は、どこか弟の影をも映し出す。
「ニコ、だったな。…おまえもそろそろこの屋敷を出る準備をしておけ」
「…………」
「…矢野、メモとペン」
「……はい」
落ちそうなまつ毛がメモ帳に伏せられる。
なにをスラスラと書いているんだろうと好奇心を湧き立たせてくる、手の動き。
「…読めるか」
あ……、目、合わせてくれるんだ…。
たぶん無意識に彼はやっていて、自分ではその優しさに気づいていない。
文字にして伝えられた言葉はとても残酷なものだったけれど、どこか目の前にゆうみが居るみたいだった───。
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