お父さんがいなくなってから家を空けることが増えて、わたしに対する扱いも冷たいものになってしまったお母さん。
それでもあの団地には必ず帰ってきてくれた。
だからわたしも、いつもいつもあの場所で待っていたんだ。
「…めんど。いい加減わかれよ、お母さんはもういないんだって。おまえは母親にポイッて捨てられた憐れで可哀想な子なんだよ」
「…カシラ、聞こえていませんよ」
「聞こえてないから言ってる」
立ったまま見下ろすメガネさん、片膝を立てるように座ってため息を吐いた銀髪さん。
泣いて訴えるわたし。
とくに痛いことをされているわけではないから、しばらくすれば涙は引っこむ。
「矢野。こいつ、何歳だと思う?」
「…13か14ほどではないですか。情報は今日のうちに揃えておきます」
「それって子供扱いしても許される歳?」
「……ギリギリ」
昨日から連続で声を出したからか、のどが少しだけ痛む。
空っぽい咳を響かせたところで、お茶だけはなんとか飲むことができた。



