“ニコ、ちゃんと食べているか。周りはお前のことをどこかの社長令嬢だと思っているから、遠慮しなくていい”
しばらくして声をかけてきたのは矢野さんだ。
矢野さんはこのパーティーで挨拶回りというよりは、どちらかと言うと会場の見回りに徹していた。
このパーティーがスムーズに進むようスタッフにいろいろ言っていたりと、裏方のほうがきっと大変なんだろうな…と、私は遠目に見ていた。
“なんか…落ち着かないの”
“もう少しの辛抱だ”
“ちょっとだけ外の空気、吸ってきてもいい?”
たぶん矢野さんも私を心配してくれていて、極力ひとりで行動させたくはないんだろう。
出会ったばかりの頃から、まるで私の世話役だった。
ゆうみは屋敷に居ないことのほうが多かったから、その間ずっとそばにいてくれたのは矢野さんだ。
“わかった。だが…くれぐれも気をつけろ。なにかあったらすぐ戻ってくるんだぞ”
「…ん。ありがと」



