いい匂いがする。
聴覚がないわたしは嗅覚が鋭い。
嫌いな匂いを嗅ぐと気分を害して、身体に異変が起こるくらいだ。
でも、この匂いは嫌いじゃない。
「カシラ、この少女をどうするつもりで?」
「んー、明日ちょうど会議だっけ?ハゲも来るだろうし、俺から話すよ」
「…組長が訪れる予定は明後日です」
「なら明後日」
頬っぺたに何かが触れる。
ペチペチと軽く叩かれて、たまに引っぱられて。
「カシラ、話すとは?この娘は借金女の身代わりですよ」
「それはお楽しみってとこ」
「カシラ」
「…なんだようるさいな。おまえさ、そのしつこさ絶対どうにかしたほうがいいから」
なんの匂いだろう。
わたしがいつも使っていた固形石鹸とは別の、花の香りが混ざったやさしい匂いがする。



