「………、」
だって怖いから。
どうしてそんなに怒ってるの?って、怖いから。
私が言葉を声で出すことは普通のひとより体力を使うこと、あなたも十分知っているでしょう。
“答えろよ。都合いいから熱のせいにするけど、優しく聞けないんだよこればっかりは”
これが、とある極道組織の若頭なんだろう。
それほどこの1枚のハンカチは、普通のハンカチではなかったらしいのだ。
あなたはずっと誰を探しているの……?
誰のために、大きなことを成し遂げようとしているの…?
「おっ、おこら…ないで…」
「…………」
地面に落ちたハンカチ。
もう拾わない。
むやみやたらに落とし物を持ち帰らない。
こうすればいつものあなたに戻ってくれるんじゃないかと抱きつけば、しばらくして諦めたようにゆっくり背中に回される。
「…ニコ」
そうだよ。
私の名前は、ニコ。
羽倉 ニコだ。
月島 音都なんて名前はもう、捨てたの。



