それはいつかに拾ったハンカチ。
ただの落とし物として、私は大切に保管していたものだ。
たったのハンカチ1枚を彼が手にしているだけだというのに、ここまで息が詰まるなんて。
「天道 春陽(てんどう はるひ)。このハンカチの持ち主は俺が潰そうとしてしてる組織の、かなり重要人物のムスメ」
「…ゆう、み」
「もう1回聞くよ、音都」
はじめて呼ばれた本名。
いいや。
こんなにも簡単に彼の口から出たということは、今までも何回かその名前で呼んでいたのかもしれない。
「こいつと、どこで、知り合った?」
たまたま海人と寄ったカフェだよ。
すこし隠れた場所にあったけれど、怪しくもなくて店員さんたちも温かい人たちだった。
歴史がありそうな古いピアノがあってね、無定期で演奏されてるらしいの。
ちょっとだけ大食いで、かわいい女の子だった。
あなたが敵対視しているその女の子のお父さんだって、悪いひとには見えなかったよ。
ごく普通のどこにでもいる、少しだけ変わった親子。



