「だいぶ厄介なことになったよ、矢野」
俺が自分の時間を割いてまでこんなことしてるとか、ほんと笑えるよ。
あんなガキんちょのためだけに動いて、母親は人間としても終わってるから消息不明な父親だけでも探そう、とか。
でも実際はもう、あいつをガキんちょだとは思えなくなってる自分にいちばん驚いている。
「アマキの幹部だとさ」
「……あま、き…?」
「そ。俺たち─雲雀会─が唯一敵わない、そして恐れてもいる……天鬼(あまき)組だよ」
娘の戸籍を隠していたくらいだ。
そこには隠さなければいけない理由があったんだろうとは、前々から思っていた。
まさかだ。
まさか国内でも天下を取っていると言っても過言ではない組織の幹部だったとは。
まあ、そう言われたなら隠していた理由も納得だよ。
「あのハゲも天鬼にだけは背中向けるしね。だからこそ、…俺ひとりで動く」
「やめてください、カシラ。天鬼は……格が違いすぎます」
矢野までこの調子だ。
天鬼という組織の名前を出しただけで、声がわずかに震えている。
としても今の俺は、ちがうんだよ。



