『………なんで、だよ』
───けれど何度言ったところで彼女には響かず、翌日には俺の前から消えていた。
『サブロー。悪いけどここ、売り払っといてくれる?家具とかもぜんぶ売ってくれていいから』
『……はいっス。でもオレ、ジローっていいます』
1枚の写真だけは捨てられなかったことが、俺の弱さだ。
『憂巳坊っちゃん』
『…また言われたよ。覚悟のない甘ったれ、だってさ。矢野もそう思う?』
世話役だった。
幹部でもある矢野は、俺が小さいときからずっと。
母親はもっと昔に亡くなって、父親はあのハゲ。
余計に矢野が親代わりみたいなもの。
『僕…、けっこー頑張ってんだけどなあ』
『私は……泣き虫で臆病だったあなたをずっと見てきました。そこが憂巳坊っちゃんの可愛いところです』
『…彫るよ、刺青』
『………、』
『やっぱ髪染めるだけじゃ何も変わらなかった。…たぶん僕にはそこまで徹底的にすることが必要なんでしょ?』
この世界に生きる象徴。
2度とカタギには戻れない証。
幼い頃から怖くて怖くて仕方がなかったものだ。
胸から腕にかけて彫った和柄は、吹き荒れる桜のなかで一匹の龍が駆け抜けている。
俺にはいつ見たって、桜の花びらが龍の涙に見えてしょうがない。



