“おかえり、今日は早いんだね。事務所に泊まってくるかと思ってた”
“…ごめん聞こえない。なんて?”
「……ふふ。…おか、えり」
「…ただいまニコ」
わたしは言葉を出す頻度が多くなって、自信を持って声を出せるようにもなっていた。
最初の頃よりは流暢に話して会話が成立していると自分でも思う。
今ではゆーみも手話でほとんどのコミュニケーションが取れるようになり、ジロー含めた舎弟たちも軽いものくらいなら使える。
この屋敷での生活でわたしが困るところが、考えてもそこまで見当たらないくらいには。
「………海人、そろそろ帰ってよ」
「はっ!?まだ問題解けてねーもん!」
「おまえ一応は中高一貫のわりと偏差値高いとこなんだろ。なに、裏口入学でもした?」
「ウラグチにゅーがく?なんだそれ?」
「…レベルひっく」
「これでもオレっ、ちゃんと受験に受かって入ったんだぞ!!」
「なら帰れ。ニコだって忙しいんだからさ」
ふて腐れた顔で帰る準備を始めた海人。
さすがにゆーみが来ちゃったら、図々しく居座ることなんかできないよね。
それくらい最近の彼はまとう空気が少しだけピリピリしている。



