いい人でないことくらいは、わかった。
「きみ、お母さんはどこにいる」
「……っ、ぅ」
「まだ帰ってきていないのか」
「……ぁ…、ぇ、て」
帰ってください。
勝手に人の家に上がらないで、いろんなものを勝手に触らないで。
「…母親はいつ頃帰ってくるか、教えてくれ」
手話を使えば眉を寄せ、逆に不信感を露にされてしまう。
相手にしっかりと伝えるための発音や言語を学んでいた聾学校での教訓を思い出しながら、ただ必死だった。
だとしてもやっぱりうまく発音できないわたしは、基本は声を出すことも話すこともできない。
先天性難聴───わたしは生まれたときから両耳がまったく聞こえなかった。
けれど4歳になるまで周りは気づくことができなかったという。



