『あなたは本当に優しい子です。…ですが坊っちゃん、あなたが生きなくてはいけない場所は命と利益を天秤にかける世界なのですよ』
『……わかんないもん。そんなの』
この弟が持っていないものを、兄はすべて持っている。
そんなことでいちいち泣いてどうする。
やられたならやり返せ───、
世話役でもあった男は、我が子のようにも思える少年に心を鬼にしてまでもそう言わなければいけなかった。
『あっ、兄ちゃん!』
『…俺に話しかけるな。おまえなんかと血の繋がった兄弟だと思われることすら迷惑なんだよ』
『ご、ごめんなさい…』
極道に染まった長男。
染まることができない次男。
この世界で必要とされるのは、前者。
『あいつはダメだ。長男と違って甘ったれに育ちやがった』
『どこかの企業に婿に入れてはどうでしょう?端正な顔立ちをしていますから、きっと女性には人気が出ると思いますよカシラ』
『ああ、そこはな』
雲雀会には長男さえ居ればいい。
長男さえ居るなら、問題はない。
困り者の次男は外にでも出せば上手く立ち回るだろう。
利益のためなら息子さえ差し出す。
それが、この組織でもあった。



