「大人しくて声もちっちゃくて料理が絶望的に下手。…ちょっとおまえに似てるよ」
「…………」
「俺を平気で捨てた女が」
耳が聞こえないわたしは、なにを言われていたところで分からない。
悪口を言われていたとしても分からない。
たとえ母親がわたしを捨てることを平然と話していたとしても、黙って家を出ていってしまったとしても………気づけない。
「でも分かるよ、こんな男を捨てる理由。俺って確信がないから。留まることもしなさそうでふらふらしてて、絶対ってのがない。
……不安になっちゃうんだろーね女の子は」
海を眺めていた彼は、わたしに振り返る。
呼んだわけでもないのに呼ばれたみたいに振り向いてくれるんだね。
「おまえには俺がどう見えてんの」
本当の顔はどれだろう。
余裕そうな顔、いじわるな顔、冷たい顔。
ゆーみはいろんな顔を持っているけれど、わたしが勝手に言っていいならば。
今の顔が本来のあなたにいちばん近いんじゃないかと思った。



