ビクッと、大袈裟なくらいゆーみの肩が揺れた。
わたしから話しかけられるとは思っていなかったのか、それとも反応されると困る内容でも話していたのか。
「ぅ、み、……きれ…」
「…ね」
途中のコンビニで買ってくれたホットココアをひとくち。
ゆーみが飲んでいるコーヒーのほろ苦い香りが、ココアの甘さと混ざった。
「やっぱまださみーや。風つっよ」
海を見ることは初めてじゃない。
ひまわりに囲まれたお花畑や、馬や羊が生活する牧場、ここよりも違う景色が見られる海。
お父さんはよく、わたしとお母さんをそんな場所に連れていってくれた。
わたしに家族との幸せがあったとするなら……あのとき。
けれど結局はどちらも置いていってしまったのだから、ないも同然だね。
【わたしの元々のなまえは、音都】
【じゃあ、いまは?】
【いまは、ニコ。ニコのほうが好き】



