「ニコ」



トントンと、肩が叩かれる。

ライトアップされた日本庭園を眺めていたらつい外に降りたくなって、飛び石から玉砂利に落ちないようにとひとりで遊んでいた。



「た、だ、い、ま」


「………ぇ、ぃ」



おかえり。

これくらいは言語にして伝えたいと思うようになったのは最近だ。


だって少しでも話せば、あなたは笑ってくれるから。



「ん、ただいま。でもねえニコさん、それ、あした。寝る、じかん」



口を大きく開けてゆっくり、覚えたての簡単な手話と。


いやいやと首を横に振ったわたしに、スーツ姿の彼はやさしい顔をする。

まるで休息はこの時間だとでも言うように。


この立派な日本家屋に住んでいるひとりで、わたしに名前を付けてくれたひと。


“ニコ”という、かわいくて立派な名前を。