奈落の悪役メイドは孤高の御曹司に求愛される

コソコソと身を寄せ合って話す3年生の先輩たち。

視線をたどると、食堂の入口に人だかりができていた。


一瞬、ネクタイの色から、猫かぶりお嬢様が取り巻きを連れてきたのかと思ったけれど……。



「えっ……」



中心に佇む人物を目にした瞬間、箸が止まってしまった。


例えるなら、黒豹。それか狼。
単語で表すなら、高貴、上品、威厳。

艶やかな黒髪は天使の輪が光っており、透明感のある白い肌はまるで陶器のようになめらか。


冗談抜きで、今まで出会ってきた人の中で、これほどまでに美しい──いや、麗しいという言葉が似合う男性がいるのかと衝撃を受けた。


しかし、その整った容姿以上に私が驚いたのは──。



「っ……!」



毛髪と同じ色をした黒い瞳が、ふとこちらを見た。パッと視線を下げ、サラダを口に運ぶ。


あの切れ長の目……どうりで見覚えがあるなと思ったら。昨日、ティッシュをくれたお兄さんだ。

高校生ぐらいかなとは思ってたけど、同い年だったなんて。


公園で泣き崩れてた人だって、気づかれたかな。あっちは私服だったけど、私はガッツリ制服だったし。

あの時はまともに話せる状態じゃなかったから、改めてお礼を言いたいけど……今は無理!

あの人だかりの中に突っ込んでいく勇気なんてないよぉぉ……。


身をすぼめて完食し、トレーを返却。
「ごめんなさい!」と心の中で叫びながら、そそくさと食堂を後にした。