奈落の悪役メイドは孤高の御曹司に求愛される

といっても、全員が全員、あからさまに敵意を向けてくるわけではなく。

先ほど仲介してくれた元クラスメイトの彼女や、落とし物を届けてくれた彼のように、挨拶してくれる人もいる。


……そんな彼らも、はじめの頃は目を合わせるどころかガン無視していたけれど。


完全に四面楚歌の状態。

弁明しようにも、片や上流階級の人間と、片や一般家庭育ちの人間。校内での立場も含め、到底太刀打ちできる相手ではない。


そのため、本人の口から訂正してもらおうと、隣のクラスを訪ねた。


しかし──。



『猫が魚食べるのは知ってたけど、メダカまで狙うとはね〜』

『ってかさ、猫って普段何食うの?』

『やっぱお肉じゃない? ライオンと同じ猫科だし。ダイヤくんは何が好きなの?』

『マグロと鶏肉。特にマグロが大好きで。猫缶を買ってくるとずっとニャーニャー言ってくるの。太るからたまにしかあげないんだけどね』



ドア越しから聞こえてきた会話に、背筋が凍りついた。


水槽から離れさせようとしていたとは言ったけれど、何の水槽かまでは明かしていない。

ましてやメダカだなんて、一言も言っていない。



『……』



ノックする寸前だった手を下ろし、踵を返した。

情けない顔を見られないよう速歩きで立ち去り、人気のない校舎裏へと急ぐ。



『っ……くっ、うぅっ……』



嗚咽を漏らしながら、行き場のない感情を校舎の壁にぶつける。


気が動転していたからじゃなかった。


全部知っていた。目撃していた。
その上で、真実を隠ぺいした。


私は、仕えていた主人に裏切られたんだ──。