大きな罵声で私を呼ぶ男性が一人。
呆れつつもその声の主を見た。大股でこちらに来ては私を睨みつけてくる……元婚約者。けれどそんな睨む視線はお隣の第二騎士団副団長に比べれば可愛いものだな。
第二騎士団副団長は、面倒だと去っていったけれど。さすがにこれは恥ずかしすぎるから私も一緒に去りたいところだ。
「こんなところにいたのか、手間とらせんなっ!」
……手間とは?
「あんなに汚したんだ、貧乏なお前にドレスの替えなんて用意する余裕なんてないに決まってるよな」
何やら勝ち誇ったかのように私に近づく彼は私の腕を掴もうとしたが、私は避けた。この行動が気に食わなかったらしい。そんな顔を向けてきた。
「何かご用でしょうか。申し訳ございませんが今は仕事中ですので、もし私個人についてのご用であれば勤務外にお願いいたします」
「そうだろうなと思ってお前のドレス用意してやったんだ。だから早く来い」
……は?
いきなり変な事を言われ、つい口をぽかんとさせてしまった。今、彼は何と言った?
私が頼んでもいないドレスを勝手に用意して、さっさと行って着ろと?
「私にドレスは必要ありません」
「そんな団服着たところでどうせ出来る事なんてただここに立ってる程度だろ。今回の交流会の騒ぎだって近衛騎士団長がいたからこそ怪我人も出すことなく終わった。〝お前は女〟なんだから、その自覚を持てよ」
「……」
何とも上から目線な態度だ。自覚を持て? 何様のつもりでいるのかしらこのお坊ちゃんは。私より3つ上の年上のはずなんだけれど。
「この前の婚約破棄は、相談なく勝手にしてしまっただろ。あとから考えて、お前に可哀そうな事をしたなと思っていたんだ。お前は底辺の男爵家令嬢、騎士団にいて社交界に顔すら出さず縁すらない。お前の知り合いで自分と近い歳の子息は俺くらいだろ。だから、この婚約破棄は白紙に戻してやる」
可哀そうな事をした? 白紙に戻してやる?
この男は本当に、一体何様のつもりでいるのだろうか。



