あぁ、またやってしまった。
目を覚まし、一番最初にそう思ってしまった。昨日の記憶が鮮明に残っている。夢? 夢なの? いや、夢であってほしい……
隣に視線を移すと、誰もいなかった。ベッドには私だけ。けれど、触れるとぬくもりを少しだけ感じる。今はだいたい9時。仕事だったらもう出勤してる時間だ。
「はぁ……」
一体何故私の所にもう一度来たのだろう。もしかして、ただ遊ばれてるだけ? さすがにあの近衛騎士団長に限ってそんな事は……と思うけれど、まさかそういう方だったのかと思うと、複雑である。
昨日は、一昨日の事は黙っていてやると言っていた。本当だったら、もうクビどころではなかった。最悪牢屋行きだ。それなのに今こうして自室で寝ていられる。
「……はぁ」
どうしたらいいんだろう。ただあの人の言う事に従っていればいい? これがお父様にバレでもしたら大変な事になるんだから。
私は一応マーフィス男爵家の男爵令嬢。そしてお父様は男爵家当主。今はお母様と一緒に首都から離れた田舎にいるけれど、もしあの人の耳に入りでもしたら……殺されるだけでは済まされない。あぁ、恐ろしい……
けれど、気を抜くと脳内に響く。
『テレシア』
昨日、何度も呼ばれたこの声が、波紋のように広がる。先輩達にテレシアって何度も呼ばれているから男性に名前を呼ばれるのは慣れている。そのはずなのに……
「……あぁもうっ!」
どうしてこんなにも、昨日の団長様を思い出すとこんなにドキドキしてしまうのだろう。
興味本位で遊ばれているのかもしれないけれど……そう考えたくないと思ってしまう私は、ただのちょろい女なのだろうか。
今日一日休みではあったけれど、休めるなんて事はなかった。また団長様が来たらどうしよう、とか。頭を抱える事ばかりだ。
疲れが取れないまま次の日、仕事の日を迎える事になってしまった。
今日は雑用ではなく王城内警備の日。同じ班である先輩方と、今日は後宮警備に向かった。後宮では今日もお茶会がいくつも催される予定だから、会場である東屋の一つにて警備となる。だからいつも通り気を抜かず仕事をしよう。
「お前、大丈夫か?」
「え?」
「いや、暗いなと思って」
「見間違いですよ。それよりガストン先輩、ひげ剃ったらどうですか」
「正装の時には剃るからいいんだよ。面倒くさい」
「……そうですか」
頭を切り替えないといけないのに、中々に難しい。気を抜くと考えてしまうけれど、答えなんてどこにもない。



