この言葉の先に、私がこうでありたい姿が待っているのではないかと思えたから。
小さい頃から見てきた、父の姿。それは歳を追うごとに憧れの姿に変わった。
その夢に、少しでも近づけるように。
「だそうよ、ロドリエス卿。確かに、侯爵家の夫人に相応しいわね」
「えぇ、私には勿体無いくらいです。さ、テレシア」
「……」
隣にいた団長様は、笑顔で私の左手の薬指に赤い宝石の指輪を収めた。このタイミングでの指輪は、絶対に逃がさないぞとでも言われているように感じる。けれど、私の性格をご存じらしく宝石は金属に埋め込まれている。これなら使いやすいだろうとでも思ったのだろう。
「だが、テレシアはこれでは満足しない事は十分に分かってるよ」
「えっ……」
次に出してきたのは、団長様が先ほどまで腰に差していた、剣だった。けれど、団長様の剣を一度貸していただいた私なら分かる。これは、団長様の剣じゃない。あれとは違って、細いし色も違う。黒くてシンプルな剣だ。
「これなら、今後の任務で剣を使う事になっても今まで以上に能力を発揮出来るはずだ。もし調節が必要なら言ってくれ」
「……」
団長様は、何でもお見通しだ。確かに、私は指輪なんかよりこちらの方が、何十倍も嬉しい。
剣を取ると、今まで使っていた剣より少し重く感じた。けれど、使いやすそうではある。団長様の剣を使わせてもらった時は、私達に支給されている騎士団用の剣より重く感じたけれど、女性の私では少し重いなと感じる程度だった。恐らく、今使っている剣は少し軽いのだと思う。
……まさか、それも見抜いてこれを用意した、とか? 私、団長様の前で剣を振るったのは一度だけのような気がするのだが。もしそうだったとしたら、さすがこの若さでずっと近衛騎士団長を務めあげている天才騎士様だ。
「初めてだ」
「え?」
「君の笑顔を見たのは。やはり、思った以上に綺麗だ」
団長様の前では、いつも戸惑ってばかりだった。確かに、笑った事はなかったかもしれない。けれど、そんなに私は今の顔は緩んでいるという事であれば、だいぶ恥ずかしい。剣をもらって顔が緩むなんて、子供か。
でもやっぱり嬉しいから、否定が出来ない。
「……こんなご令嬢は、嫌ですか?」
「まさか、私が求める理想的なご令嬢だよ」
つい呟くくらいの声量で質問してしまった。けれど、すぐさま最大級の嬉しい言葉で返ってきてしまい、目のやり場に困ってしまった。恥ずかしすぎて、直視が出来ない。
「……光栄です」
「テレシア?」
「ありがとうございます……リアム」
恥ずかしすぎて、茹りそうになる。こんな大衆の面前でこんな事をしてくるのだから、耐えられないに決まってる。



