騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!


 いきなり電気が付き、そして後ろの方は耳元で囁いた。


「こんな時間まで仕事か? それともどこかに行っていたのか?」


 酒の匂いはしないが、とのつぶやきについドキッとしてしまう。仕事が長引いただけで飲みに行っていない。ただ昨日の事を思い出してしまっただけだ。


「あ、の……どうして……」

「言っただろう、今夜来ると」

「そうでは、なく……」

「あぁ……さぁ、どうしてだと思う?」

「えっ……」


 質問を質問で返され、戸惑ってしまった。どうして? そんな事、分かるわけがない。そもそも、この人の顔を見ていないのだから、確信していたとしてもはっきり分かってないんだから。

 恐怖感はあったが、これはちゃんと確認しなくてはと勇気を振り絞って後ろに視線を、向けた。けれど……後悔した。すぐに視線を戻したけれど全く意味はない。


「あの、誠に、申し訳ございませんでした……あの、本当に、何でもしますのでクビだけは……」


 この黒髪に赤い瞳はまさしく、近衛騎士団長、リアム・ロドリエス侯爵だ……終わった。

 私はなんてことをしてしまったんだ。酔っぱらってエリート騎士団の騎士団長に手を出すなんて……馬鹿にも程がある。

 けれどこれでクビになんてされたら、今田舎暮らしをしている怖いお父様になんと言われるかたまったもんじゃない。ただでさえ、婚約破棄されたっていうのに……


「そうだな……黙ってはおいてやろう。だが、何でもするという言葉は言わないほうがいい」

「ぇ……」


 その言葉の後に、抱きしめていた手が離され、肩を引かれ振り向かされると……顔が迫ってきていた。そしてそのまま、唇が重なる。

 いきなりの事に驚き、離れようとするも後頭部を抑えられてしまう。もう片方の手で身体を引き寄せられ、密着され身動きが取れない。口も離してもらえず、何度も角度を変え、まるで唇を溶かされてしまいそうだ。

 口の隙間から声がこぼれる。離してもらいたくても何も伝わらず、キスがどんどん深くなっていく。