「君を気に入ったんだ。どう? 僕の妾にならない?」
「っ!?」
「顔も容姿も申し分ない。この色合いの青い瞳を見るのも初めてだし。それに剣まで扱えて、この強気な性格もいい。実に魅力的だ」
この男は一体何を言っているのだろうか。私を妾に? そんなふざけた事を言って、頭おかしいんじゃないの?
でも、相手は王家の人間だ。そして、この国ではなく他国の王族。
「どう? 悪い話じゃないよね。もし来てくれるのなら、何不自由ない生活を約束しよう。危ない事は何一つしなくていい。欲しいものは何でも手に入れて与えてあげよう」
「っ……」
「さぁ、どうする?」
私に選択肢を与えているように言ってくるけれど、私にそんなものは全くない。王族の提案を断るだなんて事をしたら、どうなるだろうか。
しかもこの国と友好関係を築いてきた隣国だ。たとえ些細な事であっても、国同士の問題にだって発展すればこの友好関係にヒビが入る可能性だってある。
隣国の王家の人間と、ただの男爵令嬢。これは、従うしか道は残されていない。
顎を掴まれ、上を向かされる。まるで勝ち誇ったかのような、そんな目で私を見下ろしてくる。こんな目を、これまで何回向けられてきただろうか。それは、数えきれないくらいだ。
けれど今回は、お相手は自国の貴族や騎士達と違う、隣国の王族だ。
私はただのおもちゃ? それともコレクション?
……ふざけるな。
「……妾になれ、とおっしゃるのであれば、そのように致しましょう」
「うん、君は賢い子のようだ。ちゃんと、大切に愛してあげるから安心してね」
「――ですが、私の心の中には違う人物がいる事をご理解いただきたい」
勝ち誇った視線に、私は睨みつけるような視線を重ねた。
頭の中には、とある人物の姿が鮮明に映し出されている。
その方は、今すぐにでも会いたいと願った人物。
「私が想う方は、貴方様のような権力を振りかざして従わせるような方ではございません」
彼は一度も、自分が近衛騎士団長でありこの国の侯爵家当主だという事を自分から出さなかった。むしろ、私が団長様と呼ぶ事を嫌がり名前で呼ぶよう何度も言われてきた。
この方とは、全く違う。
「ふぅん。じゃあ、僕を愛せと命じれば?」
「努力は致しますが、変わらないと断言します」
「面白いね。より一層欲しくなってきた。その気持ちはいつまで続くか見ものだね」
顔を近づけてくる彼の、顎を掴んでいた手を弾き、一歩下がった。睨みつけるけれど、彼は面白げに笑ってくる。遊んでいるかのようで腹立たしい。
あぁ、ぶん殴りたい……今すぐにでもぶん殴って、あの人のところに走っていきたい。
そう、思っていた時だった。



