「やぁ、お姉さん。いい夜だね」
「……」
とある、着飾った姿をした男性。赤い髪をなさっているのが分かる。この国には赤い髪の方は中々いないし、今回の使節団の中でそういった装いをしている赤い髪の男性は、一人しかいないはずだ。
今回一日遅れでご到着なさった、第二王子殿下。
私に近づき、暗がりでもよく見えた顔で、確信した。とても、第三王女殿下にそっくりだ。
「ご機嫌麗しゅう、第二王子殿下」
「久しぶりだね」
そうにこやかに私の目の前に立った。久しぶり、という事は前にもご挨拶したことがある、という事になる。
けれど、そんな記憶はどこにもない。
「……どこかでお会いしましたでしょうか?」
「あれ、気付いてない? まぁ仮面をしていたから分からないか。青のドレスも似合っていたけれど、この騎士団の正装もいいね。まぁ、僕としてはドレスの方が好みかな」
仮面。青いドレス。そして……この赤い髪。それを考えると、あの団長様と共に潜入したあの仮面パーティーにいた方を思い出す。それに、この声も聞いたことがある気がする。
確信した。この方はあの日、あの部屋に鍵をかけたにも関わらず休憩室に入ってきたあの男性だ。
でも、どうして私だと気が付いた? 今回の来訪でお会いしたことはあっただろうか。遠くに立っていただけのはず。
「立ち姿や振る舞い方で、何となくではあったけれど剣を扱う人間だと判断したんだ。そして探してみたら、君を見つけたんだよ。覚えていた声と一緒だから正解だね」
「……」
きっと、第三王女殿下からこの国には女性騎士がいると聞いたのだろう。その話を聞き、探したといったところだろうか。
そこまで覚えているとは、驚いた。けれど、困ったな。これだと、どうしてあんな所にいたのか聞かれてしまう可能性がある。あの外国人商人を追っていた事は極秘だった。そして、彼は隣国の王族。となると、その任務内容は国としても知られたくないはずだ。
あの日、仮面はしていても団長様とも一瞬顔を合わせている。第二王子とあれば今回の来訪で陛下の近くにいらっしゃる団長様と何度も顔を合わせた事だろう。もしかしたら私のようにあの場所にいたことに気付かれている可能性だってある。これは、やらかした。
どうしたらいい。そう思っていたら、私の目の前にいらっしゃった殿下はもう一歩近づいた。私は、無意識に一歩下がる。
「仕事、大変そうだね。ご令嬢なのに苦労が絶えないでしょ。周りの目だってあるんだ。さぞ、肩身が狭いだろうね」
「……仕事ですから」
「そうか、仕事か。でも、怖いよね? だって命の保証なんてどこにもないんだから。守ってもらう側ではなく守る側なんだからそれは当たり前だ。でもね、女の子はそんな事をしなくてもいいんだよ」
女の子、か。その言葉を使われるのは……非常に腹が立つ。
「ご令嬢なのに剣を握っているという事は、そうせざるを得ないものが君にはあるのかな。それなら……――僕が助けてあげようか」
「っ……!?」
ワントーン下げた声で、私を見据えるような目を向けてそう言ってきた。
助けてあげる? 何から? この方は一体何を言っているの?



