「綾のママね? お空にいるの……」


京は目を見開いて、驚いたように綾を見る。


「いきなりこんなこと言って、ごめんね……」


綾は京の手を握って、微笑む。大丈夫だよと、言うように。


「……だから行って、京。話すって言ってくれてるんだから。京が拒んでたら、何も変わらないよ。……ちゃんと、話してきて?」


京は揺れる瞳で綾を見て、ぎゅーっと抱き付いてきた。まるで、綾にも大丈夫だと、なぐさめてくれているみたいだった。


京は綾から離れると、「ありがとう」と言って立ち上がり、お父さんのほうへと向かった。


……よかった。


安心した瞬間涙が溢れて、そばに寄って来た律兄が驚きながらも笑っていた。


「泣き虫じゃなー。……でも、ありがとうなぁ、綾」


手首を引かれて立ち上がると、律兄は涙を拭ってくれる。


律兄に頭をなでられながら、両親にはさまれて家へと帰る京の後ろ姿を見送った。その足取りは、急にしっかりとして見える。


雪に残された3人の足跡が光って見えたのは、気のせいじゃないよね。


太陽の光に照らされてふわふわと舞う雪は、まるで蛍のよう。


京と見たあの日の蛍を思い出しながら、延々と続く3人の足跡が、どうかいつまでも消えませんようにと願った。




粉雪が降り、冬が終わろうとしていた。

京と出会った春が、もうすぐ訪れる。


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