綾は京が流した一粒の涙を見つめた。
「……どうして教えてあげないんですか?」
「綾ちゃん……」
悔しかった。
京が悲しんでるの、分かっていたのに。ツラそうにしてること、知ってたのに。なんで何もしてあげられなかったんだろう。
「……京がかわいそうだよ」
「……直はね、腎臓が弱くて。手術は成功してよくなっちょーけど、100%じゃないけん……いつ拒絶反応起こすか分からんのに……家で療養なんかできんけん」
京のお父さんは目に涙を溜めていた。
「それを京に言ってあげて……」
「京はお姉ちゃん子だけん。親父達の気遣いのつもりだが」
「……でも……」
「今でさえ京は俺らと仲悪いのに、“直姉はまだ治ってない”なんて言ったら、もっと状況悪くなると思うけん。……京、絶対ふさぎ込むと思わんかや?」
京はお姉さんが治ってると思ってるから、怒ってるんだもんね……。
治ってないって知ったらどう思う? また悲しい気持ちになるかな……。
律兄が俯く綾の頭をポンと叩いた。
「巻き込んでゴメンな」
顔を上げると、京パパも京ママも、申し訳なさそうにしている。
謝る人、間違ってるよ……。
「……綾じゃなくて……京に謝って……。おじさんもおばさんも律兄も、自分たちで勝手に決めつけないで……」
綾に視線が集まる。こんな無責任なこと、言っちゃダメだと分かっていても抑えることができなかった。
「京もお姉さんも、絶対思ってるほど弱くないよっ」
綾はペコリと頭を下げて、京の家を飛び出した。



