「コップ……」


キッチンを見渡したって何もあるはずがなく、食器類はすでに業者さんのトラックの中だ。


もう……しょうがない……。


諦めて、一気に薬を口に放り込む。


口の中に広がる独特の苦みと香りに顔を歪ませながら、水道口に顔を近づけ水と一緒に薬を飲み込んだ。


「はぁ……。最近飲まないで済んでたのにな……」


溜め息混じりに言葉を漏らし、紙袋をバッグの中へ乱暴に詰めた。




───どうして心臓なんだろう……。



綾は7歳くらいの時から、心臓を動かす筋肉、いわゆる“心筋”というところに病を患っている。


もう、3年近い。

小学4年生の女の子にとって、これは恐怖でしかないよ。


しかも、この病気は少し変わった症状を見せるもの……。



──症状は一時的で、血管にも異常なし──


どこの病院に行っても、診察結果は同じ。


──原因不明──


けれど何の前触れもなく起こってしまう、発作。


なぜ発作が起こるか分からないお医者さんは、首を傾げるばかりだった。