「もう1ヶ月じゃろ〜? 一緒に住み始めて」
和也が理一にワックスを渡しながら、問い掛けてくる。
「まぁ、そうだけど……」
1ヵ月前、パパの長期出張が決まり、あたしは京の家でお世話になることになった。
最初は頑なに拒否したけど、京ママも京パパも律兄も大歓迎という感じで。
悩んでいるうちに、いつの間にかあたしの部屋がスッカラカンになり、あたしの部屋にあったものが直姉の部屋に置かれていた。
有無を言わせぬ状況になり、あたしは京の家に転がり込んだ。
「ラブラブってウザいな〜」
「なーっ」
和也と理一が顔を見合わせて、「カップル撲滅!」とか恐ろしいことを言い出す。
「……理一だって最近、梢ちゃんと会ってるらしいじゃん」
「んなっ!」
「なんだってぇ!? テメェ理一! 聞いちょらんぞ!」
「何で知っちょるが!」
うっすら頬を染めて焦る理一に笑う。
「だってあたし、梢ちゃんと仲よしだもーん!」
「くそ……梢のやろーっ」
梢先輩。あたしの2個上で、今は大学生。
理一のことが大好きで、あたしが京や理一と離れてた時、その理由を話した唯一の人。
「理一の裏切り者!」
「バッカ、やめろ!」
和也は手にワックスを大量に付けて、理一の髪をグシャグシャにした。
逃げる理一を追いかける和也。その様子を、みんな笑って見ている。
「ふっ……バカじゃな〜」
陸と一緒に笑う京に、思わずキュンとする。陽子もきっと、陸の笑顔にキュンとしてる。
陸と陽子は、順調そのもの。たまに喧嘩はするけど、熟年夫婦みたいなふたりだ。
「教室は走らないの!」
真面目な朋が怒ると、和也はピタッと止まる。
「和也ってば素直ね〜」
あたしがニヤニヤすると、和也は赤くなった。



