記憶をなくした、もうひとりの“アタシ”。
その頭の隅に、あたしはいた。その瞳から、あたしは見ていた。
目が覚めた時、京に抱きしめられたことも。陽子が泣いていたことも、陸がなだめていたことも。
理一の困惑した表情も、和也と朋の泣きそうな顔も。あたしは闇の中で、見ていた。
記憶をなくしたもうひとりのアタシに向ける、京の寂しそうな笑顔も。
全部全部、見ていたの。
ダメ、みんなのそばに戻っちゃダメ。
そう、もうひとりのアタシにずっとシグナルを送っていた。
だけど全て、無駄だった。
……京が……全て取り除いてしまったから。
アタシの不安も悲しみも、寂しさも孤独感も、全部全部、根こそぎ取り除いてしまった。
その京の行動が、京を忘れたアタシにある感情を持たせた。
あたしは京に恋をする、運命なのかな……。