「綾……何でそうなるんだよ……弥生さんは……命を守ってくれたじゃろ? 綾に……生きてほしいから……」

「だって……ママ……ママは……」

「綾の命はっ、弥生さんが自分の命を犠牲にして守った命じゃろ!?」


綾の瞳から、ボロッと涙がこぼれ落ちた。


「わかってるよ……そんなの……わかってる……」


綾は両手でこめかみを押さえて、目が虚ろになった。


「わかっちょるんならお母さんが言っちょったこと、聞けるじゃろ!? 聞こえんわけないが!! 何て言っちょったか、わかるじゃろ!?」

「だって! だって……綾が殺した……! ママはっ、綾を守ったから……っ守ってもらったのに……病気なんだもん……いつか……綾は死ぬんだもん……っ。だったら早く、ママのとこに……」


……綾……いつから、そんな風に思っちょったんだよ。


「綾……そんなこと、お母さんが望むわけないじゃろ……?」



……お願いだ。

お願いだから、目を背けんで。耳を傾けて……。



綾の虚ろな目から、次々と涙が零れ落ちていく。


まるで意識が、ここにないみたいに。


「……マ、マ……」


逃げんな綾。

お母さんに助けを求めるんは、間違っちょるんだよ。

お母さんは、もういないじゃから……。


「ヤダ……ヤダ……ヤダよ…っひとりになりたくないっ!」

「綾っ!」


錯乱しかけた綾の肩を、勢いよくつかんだ。


「逃げんなや! 俺がそばにおっちゃるけん!!」


いなくなってしまった人に、救いを求めるなよ。


俺が…今、ここに、おるじゃろ……。