……沈黙が嫌だ。
京とふたりでいられるのは嬉しいけど、この空気は嫌だ。
京は何で、弁護士になりたくないのかな……。なんで将来何になりたいのか言わないんだろ……。
重い雰囲気にいたたまれなくなり、勇気を振りしぼって口を開いた。
「京は何になりたいの?」
京が動く足を止め、真っ直ぐ綾の目を見てくる。
「あの家は嫌いだけん」
「………何で?」
「親父とはしばらく話しちょらん」
問いかけに答えない京は、傷ついた瞳で空を仰いだ。
「あんな奴と同じになりたくない」
あんな奴って、お父さんのこと…?
見えない京の心に不安が募って、存在を確かめるように京の手を取った。
綾を映す瞳は、やっぱりどこか寂しげで。もういちど問いかけた声は震えてしまった。
「……何で?」
京の綺麗な顔の輪郭が、月の光でぼんやりとかすむ。
「何でじゃろうな」
そう言った京は、微笑んでいた。
だけど違かった。
今にも泣きだしそうな笑顔だった。
綾はそれ以上、京に問うのを止めた。
冷たい風が、向かい合う体のわずかな隙間を吹き抜ける。
この町に、冬が近付いていた。
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