情けない。こんな紙切れ1枚に、心を乱されるなんて。
「……京?」
俯いて、手で目を覆った俺の腕に、そっと触れる綾。
……俺は、手紙を残すつもりなんてなかった。
綾の病の原因を探るために東京へ行こうと決めた時、俺は離れちょる間、綾に連絡せんと決めちょった。
連絡を取っていたら、会いたくなってしまうから。一生好きだという誓いを、信じていたから。
だから、本当に何も言わず、何も残さず、東京に行くはずだった。
でも……ただひとつ、気がかりなことがあった。
「……待って、綾……今……」
話すんか? その手紙の意味を……今、このタイミングで?
話すべきなのか、話さないべきなのか、分からなくなってきた。
俺の……ただの自己満足だった。
それは、寂しがり屋の綾がどうしても気がかりで、どこにも行かない?と泣いていた綾が強烈に記憶に残っちょって……。
綾が少しでも、寂しくならんようにと。手紙で、ひとりではないと。孤独なんかじゃないと。そう、思ってくれたらって。
それなんに……。
記憶をなくす前の綾が、どんな思いで手紙を持ち続けちょったのか。その心は、どれだけの痛みに耐えたのか。
俺が綾に向けた手紙は、どれだけ綾を苦しめたんだ。
そんなもの、捨てたと思っちょったんに……。何で持ってるんだよ。
色褪せて、シワだらけで、俺の字は滲んどった。
いったい何度、その手紙を握り締めて泣き続けたんだよ……綾……。



