「俺らも……綾のこと、大事に、大切に……思っちょったよ」
俺は、綾に微笑みかける。
「綾のお父さん、よく出張に行っちょるじゃろ?」
「……うん。家にあんまりいない」
「そのたび俺んちに泊まちょったけん」
「えっ!? ほ……ほんと?」
「……俺、姉がいるんじゃけど、今ひとり暮らしをしちょるから、綾は直姉の部屋で寝ちょった」
「そうなんだ……」
1枚の布団で寝てたんは、今の綾には禁句だよな……。
「昔から?」
「昔から、っても小4から小6まで。俺、中学は東京に行っちょったけん」
「あ、そうだったね。……何で?」
「……秘密」
俺は悪戯に笑って見せて、綾は「もーっ」って言いながら俺の腕を叩いた。
「じゃあ、あたしは京と仲よかったんだね」
俺を見上げて、ニッコリ笑う綾。
仲、よかったよ。俺と綾は付き合っちょったから。
出そうになった言葉を飲み込み、俺も綾に笑いかけた。
「親友だったけん。まるで家族みたいに、仲よかったが」
「……そうなんだ。……あのさ、京」
「ん?」
「……やっぱ何でもない! 今度でいいやっ」
「今度ね」
俺は頷いて、綾の家の前で止まる。
「送ってくれてありがとう」
「ん」
「じゃあ、またね」
「連絡するけん」
「うんっ」
綾は笑顔で手を振って、家の中へ入っていった。
俺は踵を返して、俯きながら帰る。
冷たい風が肌に突き刺さる。ふと足を止めて振り向いてみたけど、当たり前に綾の姿はなかった。
「何……期待しちょるん」
自分の思考の浅はかさに、思わず笑ってしまう。
過去に捕らわれるな。
大事なのは、未来。
そう言い聞かせながら、雪が降りしきる帰り道をひとりで歩いた。



