「あ。京……」
綾の家の前。俺が昔、綾を待っていた場所で、綾が俺を待っていた。
「……何しちょるけん。中で待っちょれって言ったじゃろ」
「そろそろ来るかと思って……」
なぜか申しわけなさそうにする綾。
以前の綾なら反抗してくるが、今の綾はそうしない。まだ慣れていないんじゃろう。
「まぁいいけん。行こ。こっち」
俺は微笑んで、元来た道を戻る。綾は、俺の隣に並んで歩く。
「……宿題、何持ってきちょー」
話しかけると「えっと……」と気まずそうに話し出す。
「一応、全部持ってきたよ」
「読書感想文も?」
「うん」
「読書感想文はみんなでできんじゃろ。バカだな」
「なっ! ……そう、だけど……」
また、遠慮しちょる。
昔は手を繋いで歩いた道。今は近すぎず遠すぎず、一定の距離を保ちながら歩く。
見えん壁が、俺と綾にはある。
「あれ。俺の家」
「でっ! ……でかいね」
「ふっ」
「……え、な、何?」
「遠慮せんでもいいが」
普通に、でかっ!って、言っていいんよ。
「……ごめん、何か。まだちょっと慣れなくて……」
「嫌でも今日で慣れるが。みんな、図々しいけんね」
そう言うと、綾は目をぱちくりさせてから笑う。
あと数歩で俺の家という時、綾の足が止まった。
「……綾? どうしたが」
すでに敷地に入ってる俺は立ち止まり、横に続く道を眺めている綾を見た。
綾の視線の先を追うけど、誰もいないし、何もない。
ただひとつ、あるんは……。
「……何かあった? 綾」
「あ、ううん。何もない」
綾は笑顔を見せて、俺の後についてきた。
……期待しちゃ、ダメだ。



