部屋のテーブルを拭いて、ぐるっと辺りを見渡す。
……大丈夫かや。
綾を傷つけるものは、何もないじゃろ。
確認して、黒のダウンを羽織って雪がちらつく外に出た。
綾の家まで、歩いて10分もかからん。今まで何も思ったことはなかったけど、家が近いってすごいことだよな。
歩けば、いつでも会いに行ける距離。
東京にいた頃は、歩いても歩いても、綾に会えるはずはなかった。
別の意味で、毎日歩いて歩いて歩き続けていたら、綾に近づけたけれど。
綾の闇の深さを知ってしまって、逆にそれが虚しくもあった。
東京に行ったことは、後悔しちょらん。東京に行かなければ、綾の病の原因を突き止めることはできんかったから。
だけど少し。ほんの少しだけ、後悔もあるんだ。
綾から黙って離れてしまったこと。
そのせいで、綾に2回も……もしかしたらもっと、発作を起こさせてしまって。綾の寿命を短くしてしまったこと。
それは後悔しちょるかもしれん。今は、まだよく分からないんだ。
俺は、間違っちょらんかった。
そう胸を張って言えるのは、綾を救えてからじゃなきゃ、絶対に言えんことじゃから。



