翌日、俺は8時頃に目を覚まし、ぼーっとする頭でリビングに降りた。
「おはよう京」
「……はよ」
母さんがすでに起きていて、ソファーに座って欠伸をした俺に珈琲を出してくれる。
「朝ご飯食べるかや?」
「んー……食べる」
いっさい頭に入ってこない朝のニュースを見ながら答えると、母さんが会話を続けた。
「みんな、10時に来るかや?」
「多分10時半」
何でかいつも、みんなは待ち合わせ時間より30分遅れてくるんだよな……。
「その前に、綾ちゃん迎えに行くんけんね?」
「ん。10時に出るけん」
「そう。ご飯よそったわよ」
そこで会話は途切れ、黙々と朝ご飯を食べた。
……記憶喪失になった綾は、俺のことだけを忘れてしまったんじゃない。
俺に関わる全てのものを、綾は綺麗に忘れちょった。
きっと自分の部屋に戻って、俺があげたハートのネックレスや香水は、自分が買ったものだと思うんじゃろう。
俺のことも律兄のことも、母さん、親父、直姉のことも。
もちろん俺の家の場所だって、道のりだって忘れちょった。
だから俺は綾を迎えに行く。家の前に座って、綾が出てくるのを静かに待つんだ。
昔の、あの頃みたいに。



