「綾、ごめんな……」
突然のパパの言葉に、目を丸くしながら答える。
「何が?」
パパは気まずそうに、視線をできるだけ合わせながら言った。
「引越しのこと。……本当は綾が小学校卒業したらって思ってたんだけど。仕事のせいで……ごめんね」
綾……顔に出てたかな……。
そう思って、すぐに満面の笑顔をつくる。
「大丈夫だよっ。4年生になる前だし、新学期には間に合ったんだもん! 空気綺麗なとこなんでしょ? 新しい学校楽しみ」
「そっか……。でも田舎だし、楽しみといっても周りには森くらいしか……」
まだ続けようとするパパの言葉をさえぎる。
「もう引越し屋さん来るよっ! ほら、お皿片しちゃお!」
それ以上、パパは何も言おうとしなかった。
朝食の片付けをするパパの背中を見つめる。
……ごめんねパパ。
綾のせいで、心配させちゃってるんだよね?
綾がママばかり好きだから、パパに気を遣わせちゃってるんだよね。
綾はパパも大好きだよ。優しくて、自分に厳しいパパ。それなのに、綾ばかりわがまま言ってられないよ。
ママと過ごしたこの家を、離れたくないなんて……。