リビングに降り、キッチンで朝食の用意をするパパに眠い目を擦りながら声をかける。
「おはよー……」
「おはよう。昨日はよく眠れた? 最近引越しの準備でろくに寝てなかったでしょ」
──引越し。
その言葉を聞いて思わずドキリとし、椅子にかけた手が一瞬止まった。
そうだ……。今日、引っ越すんだよね。まだこの家にいたいな……。
「綾?」
「えっ?」
顔を上げると、パンを乗せた皿を持ったパパが心配そうに眉を下げて顔を覗いてきた。
「どうした? 具合……悪い?」
慌てて「違う違う」と両手を振って、皿を受け取る。
「眠くてぼーっとしてただけだよ。早くご飯食べよっ! お腹空いた!」
いつもと変わらない笑顔で答えると、パパは安心したように微笑み、ふたり向かい合って少し焦げたパンをほうばった。