あんなに好きだった人。

もう、顔が思い出せない。


あたしは、12歳までの京しか知らない。


とても整った顔で、小学生の時はモデルとか小役にスカウトされそうとか、意味分かんないことを思っていた。


そんなことは思い出すのに、顔は思い出せないなんて。


……卒業アルバムを見ようと思えば、すぐに見れるんだけど……。


だけど見ないのは……。


「……22時か」


やめた。悩むなんてバカらしい。

答えなんて、すぐに分かる。



「――……もしもし?」


あたしは携帯を開き、電話をかけた。


「今から家行っていい? 話したいことがあるの」


直接、確かめる。



京が帰ってくるって本当?


そのひと言だけ、聞けばいい。


電話の相手の律兄から了解をもらい、あたしは月明かりの下を黙々と歩いた。


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