「――ありがとねっ。じゃあ、綾もう帰るからっ」
理一の横を通り過ぎようとした瞬間、手首を思いきり引かれた。
急に視界が暗くなる。
むせるような、甘い、理一の香り。綾の体中に、その香りが浸透していく。
「理一……離して」
理一に抱き締められながら、かろうじて言えた言葉。
「まだ……ヤだ」
そんな子供みたいなわがまま、言わないでよ……。
抵抗できずにいると、理一のほうから離れた。見上げる前に、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
「送るけん」
頭を撫でる手が止まって、見上げると、微笑む理一。
……どうして理一は、綾のことが好きなんだろう。そんなこと、考えたって仕方ないのに。知ったところで、応えられるはずがないんだから……。
それなのに、理一を拒むことができない綾は、小さな抵抗しかできない。
「寄る所あるから、送ってくれなくていいよ」
「……彼氏んち家?」
「うん」
「そ……」
理一は綾に視線を落とした。
頬にされた、2度目のキス。前とは違う、余韻がいつまでも残ったキスだった。
染めた髪が、軋んだ。



