京がいなくなってから半年。綾は中学1年生。少し肌寒い、紅葉が始まる季節が訪れた。
「綾〜。呼んどるっ」
教室で陽子と陸と話していると、ドアの近くにいた友達に呼ばれた。
「あらら。またかや」
「……あれサッカー部の2年だが」
「……行ってくるね……」
重い腰を上げて足を進める。陽子と陸に見送られて、見知らぬ男子が待つ教室のドアへと向かった。
「ごめんなさい」
「いや……何となく分かっちょったけん」
いい人そうなのに……。
人気の少ない階段の踊り場で、綾の目の前には見知らぬ男の先輩。
告白のたび、断るたび、胸が痛くなった。
「そぎゃん悲しそうな顔させるために、告ったわけじゃないけん……ごめんな」
「えっ、いえ……。綾こそごめんなさい」
顔の横で手を左右に振ると、先輩はためらいがちに口を開いた。
「……彼氏いちょるって、ほんとかや?」
「え?」
「や。見たやついないけん……嘘だって噂が……」
「ああ……」
この話は苦手だ……。嫌でも京の存在を求められる。
もうこの町にはいないのに……。
拳を体の横で握って、蚊の鳴くような声で告げる。
「……いるんです。ほんとに」
「……そっか。……じゃ、戻ろっか。休み時間終わるけん」
そう言われて、別々に教室に戻った。