「ぶにー」
声と共に、綾の頬っぺたが潰された。
「ぶはっ。タコタコ!」
「やめふぇよ〜」
京がクスクス笑ってる。可笑しそうに、楽しそうに、笑ってる。
……この人は綾しか見えてないって。
綾が、好きなんだって……。
綾は京をただ見つめる。京は綾の視線に気付いて、笑うのをやめた。そして綾の大好きな、優しい笑顔をしてくれた。
「……好きだけん」
ホントに一瞬、唇が触れただけ。
触れたのか触れてないのか分からないほど、短く。だけどそれだけで、体中が熱くなる。
途切れることのない好きという想いが、心を満たしていく。
京を想うたび、心が震える。
京の不器用な優しさも、真っすぐな言葉も、無邪気な笑顔も、綾だけに向けられるものであってほしいと願うのは、わがままかな?
こんなに近くにいるのに。京本人にすら、もったいなくて。この気持ちを素直に伝えられない。
「……好き? こんなタコでも?」
京は、声を出して笑った。
「茹でダコでもっ」
京の部屋の大きな天窓から、月明りが漏れていた。その光はどこか悲しげで、遠くに感じる。
卒業式が近づく、夜のことだった。



