「それじゃあね、お姉ちゃん」
玄関に降りるとお姉ちゃんに向き直った。
「ええ、またね。鈴音ちゃん…またすぐに来てね? ここは私と鈴音ちゃんの家なんだから」
お姉ちゃんは真剣な目で言う。
私とお姉ちゃんの家……。その言葉に胸が熱くなった。
「うん……また来るね」
するとその時、背後で車のエンジン音が聞こえた。振り向くと亮平の黒い車が門の前で止まってる。
「え……? 亮平、わざわざ車を持ってきたの?」
「良かったじゃない。鈴音ちゃん」
「う、うん。それじゃ、またね」
「うん、また」
2人で互いに手を振り、私は玄関の扉を閉めると亮平の元へ向かった。
「鈴音、助手席に座れよ」
亮平が運転席の窓を開け、顔をのぞかせた。
「う、うん……」
車の前に回り込む形で助手席のドアを開けて乗り込み、シートベルトをした。
「鈴音。住所ってどこだっけ?」
亮平がピッピッとナビを操作しながら尋ねてきた。
「え? 何言ってるの? 駅まででいいよ」
「駄目だ」
いつにまして真剣な目で私を見る亮平。
「鈴音……お前、事故の後遺症があるんだろう?」
「え?」
「しょっちゅう、強い眠気に襲われているそうじゃないか?」
「あ、あれは……後遺症かどうかはまだ分からないよ」
「今日だって家で眠ってしまったんだろう? 忍に聞いたよ。ほら、住所教えろ」
「わ、分かったよ……」
住所を教えると、亮平はナビに打ち込んでセットした。
「よし、行くか。」
「うん。お願い……」
そして亮平はハンドルを握り、アクセルを踏んだ――
車が走り出して少しの間、私達は互いに黙っていた。カーステレオからは低音量でJポップの歌が流れている。やがて赤信号になって車が停車したとき、亮平が尋ねてきた。
「鈴音、あの男とはどうなった?」
「え?」
亮平の方を見るも、こちらを見もせずに、亮平はただハンドルを握りしめ、正面をじっと見つめていた。
「あの男って……川口さんの事?」
「そうだ」
「別に何も。あれ以来会ってもいないし」
「そうか……。向こうから連絡は無いのか?」
どうして亮平はそんな事を聞いて来るのだろう? 少しだけイライラしながら答えた。
「無いよ。そもそも連絡なんかくるはずないもの」
「どういう事だよ?」
亮平は初めて私の方を振り向いた。
「川口さんからの電話番号やアドレスは聞いてるけど私からは何も教えていないから」
「え……? それ、本当か?」
その時、信号が青に変わった。
「亮平、信号……青に変わったよ?」
「あ、ああ……」
再び、亮平はアクセルを踏むと車を走らせた。
「そんな事よりさ、私の方が亮平に聞きたい事があるんだけど」
「……」
しかし、亮平は返事をしない。だから私は勝手に話す事にした。
「一体お姉ちゃんと何があったの? おばさんに聞いたよ。最近全然お姉ちゃんと亮平は会っていないって。それにどうしたの? お姉ちゃんの事忍さん何て呼ぶし、敬語を使って話すし……あれじゃ、2人が恋人同士になる前の関係に戻ってるじゃないの」
それでも亮平は口を聞かない。口を真一文字に閉ざしたままだ。でもその肩は小刻みに震えている。
その様子を見て私はあることに気が付いた。
「亮平。ま、まさか……? お姉ちゃんの記憶が……?」
すると亮平はハンドルを握りしめる。
「忍の記憶……俺と恋人同士になる前に戻ってしまったんだよ……。お前が交通事故に遭った翌日に……」
亮平は血を吐くように言った――
玄関に降りるとお姉ちゃんに向き直った。
「ええ、またね。鈴音ちゃん…またすぐに来てね? ここは私と鈴音ちゃんの家なんだから」
お姉ちゃんは真剣な目で言う。
私とお姉ちゃんの家……。その言葉に胸が熱くなった。
「うん……また来るね」
するとその時、背後で車のエンジン音が聞こえた。振り向くと亮平の黒い車が門の前で止まってる。
「え……? 亮平、わざわざ車を持ってきたの?」
「良かったじゃない。鈴音ちゃん」
「う、うん。それじゃ、またね」
「うん、また」
2人で互いに手を振り、私は玄関の扉を閉めると亮平の元へ向かった。
「鈴音、助手席に座れよ」
亮平が運転席の窓を開け、顔をのぞかせた。
「う、うん……」
車の前に回り込む形で助手席のドアを開けて乗り込み、シートベルトをした。
「鈴音。住所ってどこだっけ?」
亮平がピッピッとナビを操作しながら尋ねてきた。
「え? 何言ってるの? 駅まででいいよ」
「駄目だ」
いつにまして真剣な目で私を見る亮平。
「鈴音……お前、事故の後遺症があるんだろう?」
「え?」
「しょっちゅう、強い眠気に襲われているそうじゃないか?」
「あ、あれは……後遺症かどうかはまだ分からないよ」
「今日だって家で眠ってしまったんだろう? 忍に聞いたよ。ほら、住所教えろ」
「わ、分かったよ……」
住所を教えると、亮平はナビに打ち込んでセットした。
「よし、行くか。」
「うん。お願い……」
そして亮平はハンドルを握り、アクセルを踏んだ――
車が走り出して少しの間、私達は互いに黙っていた。カーステレオからは低音量でJポップの歌が流れている。やがて赤信号になって車が停車したとき、亮平が尋ねてきた。
「鈴音、あの男とはどうなった?」
「え?」
亮平の方を見るも、こちらを見もせずに、亮平はただハンドルを握りしめ、正面をじっと見つめていた。
「あの男って……川口さんの事?」
「そうだ」
「別に何も。あれ以来会ってもいないし」
「そうか……。向こうから連絡は無いのか?」
どうして亮平はそんな事を聞いて来るのだろう? 少しだけイライラしながら答えた。
「無いよ。そもそも連絡なんかくるはずないもの」
「どういう事だよ?」
亮平は初めて私の方を振り向いた。
「川口さんからの電話番号やアドレスは聞いてるけど私からは何も教えていないから」
「え……? それ、本当か?」
その時、信号が青に変わった。
「亮平、信号……青に変わったよ?」
「あ、ああ……」
再び、亮平はアクセルを踏むと車を走らせた。
「そんな事よりさ、私の方が亮平に聞きたい事があるんだけど」
「……」
しかし、亮平は返事をしない。だから私は勝手に話す事にした。
「一体お姉ちゃんと何があったの? おばさんに聞いたよ。最近全然お姉ちゃんと亮平は会っていないって。それにどうしたの? お姉ちゃんの事忍さん何て呼ぶし、敬語を使って話すし……あれじゃ、2人が恋人同士になる前の関係に戻ってるじゃないの」
それでも亮平は口を聞かない。口を真一文字に閉ざしたままだ。でもその肩は小刻みに震えている。
その様子を見て私はあることに気が付いた。
「亮平。ま、まさか……? お姉ちゃんの記憶が……?」
すると亮平はハンドルを握りしめる。
「忍の記憶……俺と恋人同士になる前に戻ってしまったんだよ……。お前が交通事故に遭った翌日に……」
亮平は血を吐くように言った――



