「よし、入るぞ」

 15分後、私達は最寄りのマクドに来ていた。
 赤い看板に黄色のMマーク。
 宝生くんは、やけに気合が入っていた。

 ドアを抜け、中に入る。
 夕方のこの時間は、結構混む時間帯だ。
 レジの前では、10組ぐらい並んでいた。

「なんだ、待つのか?」

「まあ、この時間帯だからね」

「なんで席の予約をしなかったんだ?」

「できるわけないでしょ!」

「できないのか? それは不便だな」

「ファストフードって、そういうもんじゃないの? で、何にする?」

「? 初めてだから、わからんぞ。オススメは何だ?」

「オススメって言われても……お腹すいてる?」

「ああ、結構すいてる」

「じゃあビッグマクドとかは? 二段重ねになってるやつ」

「ああ、いいな。じゃあそれで。ミディアム・レアで頼む。ソースは、そうだな……フォアグラソースがいい」

「あんた、なに言ってんの?」

 前に並んでいた女子大生っぽい2人組が、驚いた様子でこちらを振りかえった。

「焼き加減なんて、選べないわよ。ソースも決まってんの」

「なにっ? 焼き加減もソースも選べないだと? 信じられん。飲食店のサービスとは思えんぞ。ちょっとシェフに話してくる!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」

 カウンターの方へ行こうとする彼を、引っ張って止めた。
 前の2人が、肩を震わせて笑っている様子がわかる。

「マクドってそういうとこなのよ! それにそもそも、シェフなんているわけないじゃない!」

「そうなのか?」

「そうなの!」

 宝生君はまだ納得していないようだったけど、とりあえず注文した。
 彼はビッグマクド、チキンナゲット、アイスコーヒーのセット。
 私がテリヤキバーガー、ポテト、アイスキャラメルラテのセットだ。
 注文した分の無料クーポンを、宝生君がレジのお姉さんに手渡した。

「ところで……今更なんだけど」

「ん?」

「ご馳走になっちゃって、いいの?」

「ああ、もちろんだ」

「そう。ありがと」

「ところで、もの凄く人の回転が早いな」
 彼は変な所に感心していた。

「まあそういうところだからね」

 確かに結構並んでいたけど、入店してから5分後には商品を手にしていた。

 私がトレイを一つ持とうとしたら、「持つよ」といって宝生君はトレイを2つとも持ってくれた。

 この店舗には2階がない。
 2人そろって、奥のスペースへ入っていく。
 ちょうど一番奥のコーナーに、4人がけの席が空いていた。

「ここでいいよな?」

「うん」

 彼は私を奥側のシートに座らせた。

「なんで椅子が動かないんだ?」

 彼が向かい側に座る時、椅子を両手でガチャガチャと動かそうとしている。

「あーそういう椅子なんだよ。固定されてるの」

「そうなのか? 全く不便だな」

 文句を言いながら、彼はようやく椅子に座った。

「この時間でも、それなりに混んでるな。大半が学生だ」

「そりゃそうでしょ。学校帰りに友達と一緒におやつタイムって感じじゃない?」

 あ、友達と一緒にとか、言っちゃいけなかったかな……。

「なるほど。てことは夕食時になると、もっと混むってことだな。」

「もちろんそうだよ。家族連れが増えると思う。子供ってマクド大好きだしね」

「なるほどな」

 宝生君はそう言うと、店内のフロア全体を見渡した。

「じゃあ食べよっか。初マクド」

「ああ、いただこう」

 私は両手を合わせて、いただきますと小声で言った。
 向かい側で、宝生君が口角をちょっと上げていたのがわかった。