「あったぞ。これ」

 翌日の夕方、同じ図書館の同じ席。
 勉強中の私の横から、低く優しげな声が聞こえた。

 宝生君は手に2つ、お菓子の小箱を持っていた。
 箱には「ウルトラソフト・キャラメル」の表記。
 でも私がいつも食べている、茶色の小箱ではない。

「これって……」

「なんか味が違うみたいだな」

 一つの箱には、「山梨ぶどう味」
 もう一つには、「帯広ヨーグルト味」
 そう書かれていた。

「な、なんでこんなレアアイテム、持ってんの?」

 私は思わず聞いてしまった。
 この2つは同じウルトラソフトでも、地域限定・期間限定の商品。
 両方とも入手困難な、マニアには垂涎の一品だ。

「なんでって……倉庫部屋を漁ってたら、出てきたぞ。以前なんかもらったような記憶があったからな」

 彼は何でもない事のように言った。

「食べてみよう。ちょっと休めるか?」

 そう言って私を促す。
 確かにここで喋りながら食べるというのはまずいだろう。

 私たちは二人揃って、図書館の休憩エリアに向かった。
 椅子とテーブルがいくつかあり、飲み物の自動販売機もある。

「何飲む?」

「え? べ、別にいらないけど……」

「遠慮するな。俺だけだと飲みづらい」

「そうなの? じゃあ、アイスティーで」

「このボトルのでいいのか?」

「うん」

 彼はボトルのアイスティーと微糖の缶コーヒーを自販機で買った。
 二人で椅子に座ると、彼が帯広ヨーグルト味の箱を開けて中から2個抜き出した。
 そして1個を自分の分に取って、もう1個と残りの箱ごと全部私に差し出した。

「いらないの?」

「ああ。味見だけさせてくれ」

 二人で包み紙を開けて、口にほおばる。
 ヨーグルトの爽やかな酸味と甘みが、口いっぱいに広がった。

「あ、おいしい」
「お、美味いな」

 二人の声が重なる。
 私はちょっと恥ずかしくなった。

「飲むか?」
 彼が紅茶のボトルを手にとって聞いた。

「え? う、うん」

 そう答えると、彼はペットボトルのキャップをひねって開け、私に差し出してくれた。

「ほい」

「ありがと。お金出すね」

「いらないって、これぐらい」

「で、でも……」

「俺がのどが渇いただけで、ついでに買っただけだ。気にするな」

「そ、そう? じゃあ……ありがと。遠慮なくいただくね」

 そう言って私は、宝生君からボトルを受け取る。
 私はやけに喉が乾いてしまっていた。
 ペットボトルから紅茶を2-3口、勢いよく流し込む。

「こういうの、よくもらったりするの?」

「ああ、この類のものは山ほどある。菓子類から文房具、ファミレスのクーポンやら映画のチケットやら、いろいろだな」

「へえー、やっぱり凄いんだね」

「ちっとも凄くなんかないぞ。やっぱり高校生だから、こういうのが好きなんだろうって思われてるんだろうな。知らない間にいろんなところから、山のように送られてくる」

 彼はちょっとうんざりした表情でそう言った。

「大体は食べないし使わない。気がついたら期限切れっていうのが大半だ」

「えーなんで? 勿体ないでしょ?」

「勿体ないって言われてもな……」

 羨ましい。
 こっちは毎日の食費を切り詰めながら、生活してるっていうのに……。
 まあそんなこと言ったって、彼には理解できないだろうけど。

 それから彼は、2つ目の山梨ぶどう味の箱を開け、同じように1個だけ取って残りを私にくれた。

「んー、これもおいしい」
「おー、確かにぶどうだ」

 フルーツ味のキャラメルなんて、できるんだな。
 私は変に感心してしまった。