右隣から呟く声が聞こえてピタリと足を止める。



「ぜひ、俺と一緒に探しましょう!」

「…………は?」



手を握る代わりに本を握ってきた。



「先生から聞いてたんです。八雲さんはとても仕事ができる有能な人だって」

「え」

「本の異変にいち早く気づくから、傷がひどくならずに済んでる、百人力だって言ってました」

「そ、そうなの?」

「はい。観察力がずば抜けた八雲さんとなら、きっと見つけられると思います!」



前髪の隙間から覗く瞳が、希望の光をまとってキラキラ輝いている。


ちょっと待ってよやめてよ。こんな廊下のど真ん中で。下手したら今日殺されるって。

まだ私やりたいことたくさんあるのに、勝手に寿命を縮めないでいただけます⁉

っていうか、ぜひって言いませんでしたこの人。
そこは百歩譲って「良かったら」じゃないの⁉ 拒否権ないんですか⁉



「ダメ、ですか……?」



今度は捨てられた子犬のような目で見つめてきた。


どうしよう、断っても断らなくても、どっちみち反感を買いそうだよね。なんて地獄すぎる選択なんだ。

でも……。



「……わかりました。私で良ければ、よろしくお願いします」

「ありがとうございます!」



おずおずと引き受けると、不安げだった瞳に再び光が灯った。


……負けてしまった。いや、あえて負けてあげたんだ。

そこそこ人がいる前でバッサリ断られたというトラウマを植えつけたくないし。


別に、1度見てみたいなぁなんて、これっぽっちも……ほんの少ーし、好奇心が湧いただけよっ。


本を教室に置いた後、スマホを持って廊下へ。

登録人数1桁の連絡アプリに、新たに七瀬くんの名前が加わった。