「あの…もしかしたらですけど…私の実家にならある、かもしれません…。」
つい、もう一つの可能性を口に出して言ってしまう。
背広の男はその不確かな話しに思いもよらず飛び付いて来るから、私の実家である古本屋の話しをする。
「今、そこにあるかどうか確認出来ませんか?」
食い付いてくる男に少しの不安を抱きながら、
「古びた古本屋の為、デジタル管理もしていませんし、祖父が付けていた帳簿は実家にあります。…しかし、今そこは誰も住んで居ない為確認しようがありません。」
祖父は亡くなり、祖母は本土の老人ホームで余生を送っている。実家の鍵は私だけが持っている。
この…本の表紙を見た事があると…遠い記憶の中で思うのだが、確信を持って言う事は出来ない。
その事を話して聞かせると、
「明日、有休を取れませんか?どうか力をお貸し頂け無いでしょうか?」
両手で手を握られてお願いされてしまう。
これは…どう考えても仕事外の話しなってしまう。そう思った途端、過度な接客になってしまうのではないかと、図書館員としての掟書を頭に思い返し、サーっ血の気が引いてくる。
やり過ぎな接客はいけないと、仕事前のオリエンテーションでも教わっていた…。
どうしましょうと、館長に救いの目を向ける。
「お客様、申し訳ありませんが…当方としましては、そこまで過度な接客は致しかねます。彼女は今年入ったばかりの新人でして、有休も3ヶ月絶たないと発生しないものですから、休みを取るとなると欠勤になってしまいます。」
さすが館長、いろいろ御託を並べて丁寧に断りを入れてくれる。
それなのに…相手はもう一段上手のようで、致し方ないとばかりに名刺を館長に差し出す。
すると、それを見た途端コロッと態度が代わり、
「明日、休みあげるから実家まで行って本を探してあげなさい。」
と、言って来る。
えっ!?
まるで水戸黄門の御印籠でも見たかのような心変わりに、私も驚き館長の手元にある名刺を垣間見る。
白建コーポレーション
副社長秘書 酒井 智也
白建と言えばTVのCMでもお馴染みの、大手建設会社である事は世間の事には疎い私でも分かる。
そしてその副社長秘書ともなれば…それは凄い人なのだろう。
「休んでしまって……良いんですか?」
小声で館長に再度確かめようと振り返ると、同時に閉館5分前の音楽が鳴り響く。
「とりあえずここの戸締りは僕がやるから、椎名さんは帰り支度して、後はこちらの酒井さんと明日の打ち合わせをして下さい。」
館長が私にそう指示をしてくるから、これはいよいよ本気だと思い、急いで帰り支度をしにロッカーへと行く。
その裏で館長が教えてくれたのは、この図書館は白建コーポレーションが建設し、協賛金を毎年出資してくれている大切な会社だと言う事を知る。
「だから、くれぐれも粗相のないよう。あと、相手には極力協力して力になってあげて下さい。」
と、指示があった。
「分かりました…。」
私は思った以上の大役を担ってしまった事を今更ながら知る。
その後、私服に着替えた私は、図書館前のコーヒーショップで待つ、秘書の酒井さんのところに急ぐ。
つい、もう一つの可能性を口に出して言ってしまう。
背広の男はその不確かな話しに思いもよらず飛び付いて来るから、私の実家である古本屋の話しをする。
「今、そこにあるかどうか確認出来ませんか?」
食い付いてくる男に少しの不安を抱きながら、
「古びた古本屋の為、デジタル管理もしていませんし、祖父が付けていた帳簿は実家にあります。…しかし、今そこは誰も住んで居ない為確認しようがありません。」
祖父は亡くなり、祖母は本土の老人ホームで余生を送っている。実家の鍵は私だけが持っている。
この…本の表紙を見た事があると…遠い記憶の中で思うのだが、確信を持って言う事は出来ない。
その事を話して聞かせると、
「明日、有休を取れませんか?どうか力をお貸し頂け無いでしょうか?」
両手で手を握られてお願いされてしまう。
これは…どう考えても仕事外の話しなってしまう。そう思った途端、過度な接客になってしまうのではないかと、図書館員としての掟書を頭に思い返し、サーっ血の気が引いてくる。
やり過ぎな接客はいけないと、仕事前のオリエンテーションでも教わっていた…。
どうしましょうと、館長に救いの目を向ける。
「お客様、申し訳ありませんが…当方としましては、そこまで過度な接客は致しかねます。彼女は今年入ったばかりの新人でして、有休も3ヶ月絶たないと発生しないものですから、休みを取るとなると欠勤になってしまいます。」
さすが館長、いろいろ御託を並べて丁寧に断りを入れてくれる。
それなのに…相手はもう一段上手のようで、致し方ないとばかりに名刺を館長に差し出す。
すると、それを見た途端コロッと態度が代わり、
「明日、休みあげるから実家まで行って本を探してあげなさい。」
と、言って来る。
えっ!?
まるで水戸黄門の御印籠でも見たかのような心変わりに、私も驚き館長の手元にある名刺を垣間見る。
白建コーポレーション
副社長秘書 酒井 智也
白建と言えばTVのCMでもお馴染みの、大手建設会社である事は世間の事には疎い私でも分かる。
そしてその副社長秘書ともなれば…それは凄い人なのだろう。
「休んでしまって……良いんですか?」
小声で館長に再度確かめようと振り返ると、同時に閉館5分前の音楽が鳴り響く。
「とりあえずここの戸締りは僕がやるから、椎名さんは帰り支度して、後はこちらの酒井さんと明日の打ち合わせをして下さい。」
館長が私にそう指示をしてくるから、これはいよいよ本気だと思い、急いで帰り支度をしにロッカーへと行く。
その裏で館長が教えてくれたのは、この図書館は白建コーポレーションが建設し、協賛金を毎年出資してくれている大切な会社だと言う事を知る。
「だから、くれぐれも粗相のないよう。あと、相手には極力協力して力になってあげて下さい。」
と、指示があった。
「分かりました…。」
私は思った以上の大役を担ってしまった事を今更ながら知る。
その後、私服に着替えた私は、図書館前のコーヒーショップで待つ、秘書の酒井さんのところに急ぐ。



