古本屋の魔女と 孤独の王子様

ポーン
軽快な音を鳴らしてエレベーターが止まる。
扉が開くと数人の従業員、そしてその後ろに…日向の姿。
俺に気付いた社員が、
「お疲れ様です。」
と頭を下げて場所を開けてくれる。
「…お疲れ様です…。」
息を整えながら何食わぬ顔で、日向の一歩前に並び立つ。

入り際で日向に一瞬目を向けたが、俯く彼女の表情は分からない。

「副社長、明日なんですが…。」
社員の1人が声をかけて来るので、受け答えをしながら、彼女に触れるか触れないかまですり寄る。

「ありがとうございました。また、明日お願いします。」
数人の社員が2、3階下で降りて行く。
そして、15階まで来るとやっと日向と2人きりになる。
俺は日向の目線に合わせるように壁に寄りかかる。
「日向、嫌な思いをさせて悪かった…。大丈夫か?」

それでも、黒縁メガネと前髪で遮られた瞳はよく見えず不安を掻き立てる。

ポーン
と軽快な音と共にエレベーターは1階に到着した。
扉が開くと同時に、バッと、俺を避けて日向が走り出す。

「……っ!」
一瞬出遅れて、俺も日向を追いかける。

本社ビルを出ると、外は暗くて一瞬日向を見失う。
キョロキョロと周りを見渡せば、すぐ近くの公園へと続く横断歩道を走り抜ける彼女を見つける。

本社前、帰る社員もいる中で俺は構わず彼女を追いかける。
公園の入口に噴水があり、その手前で日向の腕を捕まえる。
「日向…!」
それでも振り払おうとする彼女に、必死の思いで呼びかける。
肩で息をしながら日向がやっと止まってくれた。