イギリスから帰国後、日本はいつの間にか真夏を迎えていた。

暑い日にはスイカが食べたくなる筈と、莉子は司の事を思い、冷たい井戸水でスイカを冷やす。

このところ夏バテなのか少し体調が優れない莉子だが、心配性の司には出来るだけ分からないようにと気を使う。

彼はいつだって莉子を1番にしてしまうから、莉子が体調を崩せばたちまち仕事を休む。そうなると、途端に仕事が滞ってしまうから、社員に迷惑がかかってしまう。

ワンワンワン…

玄関先の庭にいる番犬のリキが声をあげる。
あっ、旦那様のお帰りかも、そう思うと莉子は嬉しさのあまり、バタバタと小走りに玄関へと急ぐ。

その途端、ぐらっと世界が回りふにゃふにゃと視界が歪む。サーっと血の気が引き、しまった、と思うには後の祭りだった…。

次に意識を取り戻した時は、ベッドの上だった。

頭の上には冷たい手縫いが置かれていた。
ああ、どう言い訳をしようかと莉子は悩み、少しだけ目を開けずに考える。

何も良い案が閃かない…仕方なく観念して目をそっとあけるのだった…。

(どうして体調が悪い事を俺に言わなかった?)
司はそんな目をして莉子を見つめているように思い、

「ご心配をおかけして…すいません。」
と素直に謝る。

「いや…気付けなかった俺が悪い。我慢させて悪かった。微熱があるようだから、明日医者に行こう。夏の暑さで疲れが溜まっているのかもしれない。」

こくんと頷き素直に同意する。
「明日、1人で行って来ますから心配しないでくださいね。」
莉子は微笑みを浮かべ司を見つめる。

「お夕飯、食べられましたか?」
自分の事よりもまず、相手の事を気にしてしまう莉子だから、司がお腹を空かせてないかが何よりも心配なのだ。

「俺の事は大丈夫だから、大切なのは莉子の身体だ。スイカが冷やしてあったから一緒に食べよう。」
そう言って足早に寝室を出て行ってしまう。

司と冷たいスイカを食べて、その日はゆっくり寝る事にした。